大阪高等裁判所 平成11年(行コ)67号 判決 2000年3月15日
控訴人
泉正次
控訴人
泉善三郎
控訴人
泉與四郎
控訴人
泉孝子
右四名訴訟代理人弁護士
関戸一考
同
乕田喜代隆
同
武田純
被控訴人
東住吉税務署長 加幡修
右指定代理人
下村眞美
同
山本弘
同
馬場一
同
小谷宏行
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決中過少申告加算税賦課決定処分に関する部分を取り消す。
被控訴人が控訴人らに対して平成四年七月七日付けでした各過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 控訴費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要
次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のうち、被控訴人に関する部分のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決五頁一〇行目から同六頁五行目までを次のとおり改める。
「本件は、相続税の修正申告をした控訴人らが、当初申告に誤りがなかったにもかかわらず、右修正申告は相続財産に含まれない財産を相続財産として誤った申告をしたもので、<1>右修正申告に基づいて納付すべき税額がないのにこれをもとに被控訴人が控訴人らに過少申告加算税を賦課したのは違法である、<2>右修正申告は、国税局職員らに強要されたものもしくは心裡留保により無効であるから賦課要件である有効な修正申告がなく、したがって右加算税の賦課処分は違法である、<3>当初申告において、右修正申告に基づいて納付すべき税額(以下『差額税額』ともいう。)の計算の基礎となった相続財産を除外したのは国税通則法六五条四項の『正当理由』があるなどと主張して、差額税額につき、被控訴人が控訴人らに対してした各過少申告加算税の賦課決定の取消しを求めた事案である。
これに対し、被控訴人は、当初申告に誤りがあり、修正申告に誤りはないとし、右賦課決定は賦課要件を満たし適法である、控訴人ら主張の右正当事由はないなど主張して争っている。」
2 同七頁四行目の「赴き」を「赴く等して」と改める。
3 同一三頁五行目の末尾に続けて、次のとおり加える。「敷衍すると、控訴人正次は、三〇年近くにわたり、自己名義で不動産の取引を行い、譲渡所得税などの申告も行ってきており、同控訴人が最初に購入した豊中市服部緑地の土地及び豊中市上新田の土地は、同控訴人が新たに養鶏場を開設する目的で取得し、農地転用の申請や準備工事も行ったものであるから同控訴人の所有であることは明らかである。そして、同控訴人は、右各土地を取得金額よりかなり高額な金額で売却して別の土地の購入、転売を繰り返し、昭和四八年一二月一三日に奈良市学園大和町の土地を売却して関西電力の株式を購入し、その後は株式を売却して新たな株式を購入する形で土地及び株式の各売却代金の範囲で株式取引を行った。」
4 同一三頁一〇行目の末尾に続けて、次のとおり加える。
「被控訴人は、右各人の銀行口座が善次郎に帰属すると主張するが、例えば控訴人正次名義の銀行口座には、同控訴人所有の土地の売却代金が振り込まれ、同控訴人に対する固定資産税が引き落とされており、他方善次郎名義の株式の配当は全く振り込まれておらず、善次郎及び控訴人正次の各銀行口座が明確に分離されて管理されていたことからすれば、控訴人正次に右口座が善次郎に帰属するということはできず、同控訴人の妻子名義の銀行口座も同様である。」
5 同一五頁七行目の末尾に続けて次のとおり加える。
「仮に本件株式が全て善次郎に帰属するのであれば、このような細かな作業を行う必要はないのであるから、右入金の事実は、株式の購入資金を各名義人が出していることの証左といえる。しかも、右取引口座を分けた時期は、税務調査がなされる一年前の昭和六三年であって、税務調査がなされることを知って分けたのではないから、家族各人が株式の所有者は各名義人であると考えていたことは明らかである。
また、控訴人正次は、右株式取引をした証券会社名や、株式の銘柄等を了知していたものである。証人中西は同控訴人が平成元年九月五日、中西らから証券会社名や、株式の銘柄、株数、株式の購入資金、株券の所持、株式取引のための預金通帳などの質問を受け、知らないと回答した旨供述するが、同控訴人は、中西らから右質問を受けたことはないから、右回答をするはずもない。」
6 同一六頁末行に続けて次のとおり加える。
「むしろ、株式が名義人以外の者に帰属すると認定できるのは、<1>購入原資を名義人以外の者が出捐しており、かつ、<2>出捐者と名義人との間に贈与の事実がないと認定される場合でなければならない。本件株式の購入原資は前記のとおり各名義人が支出したのであるから、本件株式は、名義人以外の善次郎に帰属すると認定することはできない。」
7 同一七頁七行目の末尾に続けて、次のとおり加える。
「 すなわち、<1>善次郎作成の確認書(以下「善次郎確認書」ともいう。以下同様に確認書に作成者の名をつけていう。)については、善次郎は、右確認書作成当時、八六歳の高齢であったうえ、脳卒中で倒れ寝たり起きたりの状況であり、その約一か月後には死亡したこと及び補聴器をつけず他人の声をよく聞き取れない状況であったから、同人が右確認書の内容を理解せず、作成したことは明らかである。<2>孝子確認書については、控訴人孝子が初めて税務調査を受けて動揺し、国税局の実査官斉藤のいうがままに内容を理解することなく記載したものである。このことは、右確認書(乙一七)に『<5>株式売買の損益及び投資残高』と専門的な用語が使われていることからも明らかである。<3>正次確認書については、控訴人正次は、斉藤から『加算税も一五パーセントから三五パーセントある。素直に認めたら一五パーセントに止めてやる。』とか、『更正決定だと七年間やれるのを五年間に負けてやる。』とか、『各自のものだというなら贈与税がかかる。』などといわれ、この違法な脅迫により、同人のいうとおりの確認書に署名押印せざるを得なかった。
したがって、右各確認書はいずれも各作成者の意思に基づかないから無効あるいは強迫により取り消し得るものであり、少なくとも各作成者の意思に基づかず、真実に反するものであるから、株式の帰属を決める資料とはなりえない。
2 善次郎名義申告漏れ財産の帰属について
本件相続税の修正申告にかかる申告漏れ財産とされた中に善次郎名義の株式等約二四四〇万円分があるが、右は善次郎名義の保護預かり口座にあった次の各有価証券を指すものと考えられるところ、いずれも次のとおり、名義人が存在しないか、各名義人に帰属するものであり、善次郎に帰属するものではない。
<1> 割引債ワリチョー
無記名債権であり、善次郎名義のものではない。
<2> アサヒペン一五三五株
善昌名義の株式で同人に帰属する。
<3> モリ工業三九七〇株
善昌名義の株式で同人に帰属する。
<4> 松下冷機一〇〇〇株
善昌名義の株式で同人に帰属する。
<5> ラピーヌ二〇〇〇株
泉万喜子名義の株式で同人に帰属する。
<6> 九電工五〇〇〇株
泉信吾名義一〇〇〇株、泉和見名義二〇〇〇株、泉万喜子名義二〇〇〇株でいずれも泉信吾とその名義人である家族に帰属する。
<7> 江崎グリコ二〇〇〇株
阿南芳子名義の株式で同人に帰属する。」
8 同一七頁八行目冒頭の「2」を「3」と改め、同九行目から、同一八頁三行目までを次のとおり改め、同四行目冒頭の「(二)」を削除する。
「(一) 本件処分は、当初申告が正しいものであったにもかかわらず、誤った修正申告書に基づきなされたものであって、これに伴う『納付すべき税額』(国税通則法六五条一項)は本来存在しないにも拘わらず右税額に基づきなされたものであるから違法である。すなわち、本件修正申告は、本件株式及び善次郎名義保護預かり口座に保管されていた善昌ほかに帰属する株式等(約二四四〇万円相当)が善次郎に帰属し、したがって、善次郎の相続財産に帰属するものであることを前提としてなされたものである。しかし、前記のとおり本件株式は控訴人正次及びその妻子に帰属し、かつ、後者の約二四四〇万円相当の株式等も各名義人に帰属するか、善次郎に帰属しない無記名証券であって、いずれも善次郎の相続財産に含まれないから、本件修正申告は誤りである。
被控訴人は、控訴人善三郎に同控訴人及びその妻子名義の株式は全て善次郎のものである旨の正次確認書と同趣旨の確認書を作成させているにもかかわらず、同控訴人及びその妻子名義の株式については善次郎から贈与を受けたものと認定し、本件株式とは異なる認定をしていること、及び、控訴人善三郎及びその妻子名義の株式が全て贈与を受けたものであるならば、被控訴人は、同控訴人に対し、当然贈与税の申告をさせねばならないはずであるのに、そのような慫慂をした形跡がないのは不可解である。また、控訴人善三郎や恵多郎その他の家族名義の株式と控訴人正次名義の株式は、いずれも、昭和六三年まで善次郎の管理のもとに運用されていたのであるから、本件株式が『善次郎の指示のもとに管理運用されていた』ことを根拠として善次郎の遺産と認定するのであれば、全ての家族名義の株式について同様の認定が行われ、修正申告の慫慂がなされるべきであるのにかかる課税処理が行われていないことは、被控訴人の論理に矛盾がある証左である。
国税通則法六五条は、当初申告が誤っていた結果、修正申告が提出されていることを当然の前提としているのであり、実体法的にみて当初申告が正しく修正申告が過大である場合にまで過少申告加算税を賦課すべきとの趣旨ではない。そもそも加算税制度は、申告義務及び徴収納付義務の適正な履行を確保するための制度である。そして、過少申告加算税は、期限内に申告書が提出された場合において、修正申告または更正がなされて当初申告税額が結果的に過少となったものに対し、ペナルティとして一定の附帯税を課すことにより申告納税制度のもとでの適正な申告を確保しようとするものであって、その本質は、申告義務の違反に対する制裁である。したがって、右加算税制度の趣旨からすれば仮に修正申告書が提出されても、かかる修正申告書提出の必要が本来なく、当初申告が適正なものであったときにまで過少申告加算税を課すことは加算税制度の趣旨を逸脱するものである。
(二) 本件処分は、次のとおり有効な修正申告書が提出されていないから、過少申告加算税の賦課要件を満たさず、違法である。」
9 同二〇頁末行から二一頁一行目にかけての「問題となるのみであるとしても、」の次に「前記加算税制度の趣旨からすれば、右『正当な理由』は、同条一項所定の『納付すべき税額』の基礎となった事実が『修正申告前の計算の基礎とされていなかったことについて』の正当な理由である。」を加える。
10 同三三頁六行目の次に改行のうえ、次のとおり加え、同七行目冒頭の「2」を「3」と改める。
「2 善次郎名義株式等申告漏れ相続財産の帰属について
善次郎名義株式等申告漏れ相続財産約二四四〇万円分は全て善次郎に帰属していたものである。」
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も控訴人らの本件請求は理由がなく、いずれも棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」のうち、被控訴人に関する部分のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決五三頁九行目から同五四頁七行目までを次のとおり改める。
「2(一) 控訴人らは、平成元年九月五日、控訴人正次が中西から株式の取引をしている証券会社名や株式の銘柄、株数、株式の購入資金、株券の所持、株式取引のための預金通帳などの質問を受けたことはないから、右各点について知らないなど回答するはずがないと主張し、控訴人正次本人はこれに沿う供述及び供述記載(甲八九)をする。しかし、前記認定のように、中西は、同日より前、控訴人正次及び同孝子並びに善次郎に対する株式の売買状況等を照会し、同孝子から回答を得て、同月四日、東和証券大阪支店に調査に行くなどしたうえで、翌五日控訴人正次宅に調査に赴いていることからすれば、その目的は株式取引による譲渡所得の調査であったと推認され、そうとすれば、同人が証券会社名、株式の銘柄ほか株式取引に関する質問をするのが自然であり、従ってこれを否定する控訴人正次の右供述及び供述記載は採用できず、控訴人らの右主張は採用し難い。
(二) 控訴人らは、<1>善次郎確認書(乙三)は、善次郎が高齢であり、病気のため体調がすぐれず、補聴器もつけない状態であったため、内容をよく理解しないまま作成したものである、<2>孝子確認書(乙一七)は、控訴人孝子が初めての税務調査を受けて動揺し、斉藤のいうままに作成したものである、<3>正次確認書(乙六)は、斉藤から数々の違法な脅迫を受け畏怖した結果作成したものであるなどとして、いずれも各確認書は各作成者の意思に反して作成されたものであると主張する。しかし、<1>については、事前に税務調査がある旨の通知を受けていた控訴人孝子が斉藤らを善次郎が横になっている部屋に案内していること(事実、善次郎が税務局担当者の話も理解できないほど体調が悪いのであれば、控訴人孝子が善次郎のもとに斉藤らを通すとは考えられない。)善次郎は確認書作成当日は、ラジオで株式市況を聞いていたこと、善次郎は斉藤の問いに対し、『株式取引のことは孝子が知っている』と述べたため、斉藤は善次郎の前で控訴人孝子に質問し同控訴人から説明を受けたこと、内容は斉藤が控訴人孝子及び善次郎から聴取したものをメモしてまとめたものであること、本文作成後、善次郎は、『(署名は)自分で書ける』と述べて善次郎確認書(乙三)に署名したものであること(以上控訴人孝子本人、証人斉藤)等によれば、善次郎は斉藤の質問や控訴人孝子の回答を聞きとることが出来、内容を理解したうえで確認書を作成したと認めることができる。<2>については、控訴人孝子は孝子確認書作成当日は、株式取引に関する税務調査のため税務署署員が善次郎方を訪問する旨事前に連絡を受け、同控訴人も事前に右取引に関する書類などを用意していたこと(控訴人孝子本人)、同控訴人は、斉藤に対し、自己名義の株式は自己資金で購入したから同控訴人に帰属する旨その権利を主張し、斎藤はこれを是認していること(証人斉藤)からすれば、東住吉税務署署員のみではなく、国税局実査官も訪問したこと及び初めての税務調査であったからといって控訴人孝子が動揺し、斉藤のいうがままに確認書を作成したと認めることはできないし、右確認書に使用された『株式売買の損益及び投資残高』の言葉が特に同控訴人にとって理解が困難な用語ともいえない(同控訴人は、善次郎とともに証券会社に行ったことがあり、同人の指示により証券会社社員に株式売買の依頼をしている《控訴人孝子本人》。)ことからすれば、同控訴人は、右確認書の内容を理解した上でこれを作成したものと認めることができる。<3>については、正次確認書作成の際、斉藤が控訴人正次に対し、本件株式が控訴人正次及びその妻子に帰属するとすれば贈与税がかかる旨告げたこと及び、修正申告書作成の際、斉藤が善次郎らに『(本来善次郎に帰属する株式につき家族名義を使い、譲渡益の申告を怠ることは)偽りその他不正な行為に当たる』旨述べたことは認めることができる(乙一六、証人斉藤)が、修正申告に応じなければ重加算税もある、本来調査期間は七年だが、五年にしてやる等告げたことを認めるに足りる的確な証拠はない。そして、その際斉藤は、贈与税がかかると考えた根拠及び修正申告額の根拠についても説明しており(証人斉藤)、他方これに対し反論を許さなかった等の事情は認められないから、前記認定の斉藤の言辞により控訴人正次が畏怖しその結果、斉藤のいうがままに正次確認書を作成したとまでいうことはできない。以上の認定に反する控訴人孝子本人の供述及び供述記載(甲八六)、同正次本人の供述及び供述記載(甲八九)はいずれも証人斉藤、同中西らの各供述に対比し、採用できない。
(三) また、善次郎が作成、提出した修正申告書(甲五の1ないし5)についても、控訴人孝子、同正次本人は、前記(二)<3>の控訴人ら主張と同様な理由で斉藤から善次郎が脅迫を受け、畏怖した結果作成、提出されたものであると供述するが、(二)<3>につき前記説示したとおり善次郎についても、その意思に反してまで斉藤の指示に従わざるを得ない状況にあったと認めることはできないから、右控訴人らの各供述は採用できない。
(四) 控訴人らは、本件相続税調査の際、日好及び竹ノ内税理士から修正申告をしなければ本件株式を含む全ての家族名義の株式について更正処分がある旨強迫され、畏怖した結果、本件修正申告をした旨主張し、これに沿う控訴人孝子本人の供述及び供述記載(甲八六)、同正次本人の供述及び供述記載(甲八九)がある。そして前記認定のとおり、日好は、「家族名義株式に係る問題点」と題する書面及び申告漏れが問題となる家族名義の株式を記載した資料を竹ノ内税理士に示したこと、及び平成三年一〇月ころ正次確認書及び善三郎確認書を示して同税理士に対し、修正申告を慫慂している。しかし、控訴人らが同年一一月七日に修正申告書を提出するまで少なくとも一週間はあり、控訴人らに十分検討する時間はあったこと、竹ノ内税理士は、日好の右資料中、二重計上の事実を指摘し、控訴人らの利益を保護していること(証人竹ノ内、同日好)、竹ノ内税理士は、控訴人らが依頼した税理士であり、修正申告当時、控訴人らと同税理士との信頼関係が損なわれていた事実も認められないところからすれば、控訴人らが、自己の意思に反して同税理士の指示に従わざるを得ない状況にあったとは認められない。したがって、右控訴人らの各供述及び各供述記載は採用できず、控訴人らの右主張は採用できない。」
2 同五五頁五行目の「原告正次」の前に「<1>」を、同六行目から七行目にかけての「含まれること」の次に「及び<2>善次郎以外の家族等に帰属する、家族名義の株式等約二四四〇万円分が同様に善次郎の相続財産に含まれること」をいずれも加え、同九行目の「そして、」を「そこでまず<1>について検討するに、」と改める。
3 同五七頁五行目の「決定づけるものではないし、」の次に「このことは、右預金口座に善次郎名義の株式の配当金の入金がなく、善次郎名義預金口座と混同されていないとしても同様であり、」を加える。
4 同五九頁六行目から同六〇頁末行までを次のとおり改める。
「 控訴人らは、昭和六三年七月ころ控訴人孝子が善次郎の取引口座に残っていた金員につき名義人に帰属する金員を細かく計算して、各名義人の取引口座に入金したが、本来各名義人の株式が善次郎に帰属するのであれば細かな計算をする必要はない上、右の作業は税務調査を予想してなされたものではないから、右計算及び入金の事実によれば、善次郎の家族各人が各名義の株式は、その名義人に帰属すると考えていたといえる旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり同年七月ころ以降も控訴人正次及びその妻子名義の株式は善次郎が引き続き保管し、その売買は、同人の判断と指示により行い、控訴人正次及びその妻子はその取引状況を把握していなかったこと及び控訴人正次が正次確認書を作成、提出したことに照らせば、右計算、入金の事実があったこと(前記認定)をもって、本件株式が善次郎に帰属するとの前記認定を左右するものとはいえない。
なお控訴人らは、控訴人正次は魚のあら及びその加工品の販売による利益によって不動産を購入し、購入した不動産を売却した譲渡益で株式を購入したとし、具体的には、昭和四八年に学園大和町の土地を売却して関西電力の株式を購入し、その後は株式を売却して新たな株式を購入した旨主張する。しかし、控訴人正次本人は、昭和四八年以前にも奥村組の株式を購入した旨供述するが、その購入時期は記憶がないと供述し、前記学園大和町の土地を売却した際も、関西電力のほかに複数の会社の株式を購入したと供述しながらその会社名は忘れたと供述するなど、その供述はあいまいであってすぐには採用できず、他に右不動産の売却益と株式の購入資金との関係を裏付けるに足りる的確な証拠はない。のみならず、控訴人正次名義のほかにその妻子名義の株式も存在することも併せ考慮すると、たとえ、控訴人正次が不動産の譲渡益を得ていたとしても、前記認定を左右するものではない。なお、控訴人正次本人は、子供ら名義の株式は、子供らのお年玉等や贈与税の申告を要しない範囲で同控訴人が贈与した金員で購入した旨供述するが、平成元年九月当時、株式の時価額が、泉佳寿名義株式は約三〇一二万円余、泉篤志名義株式は約三六一四万円余、泉実穂名義株式は約二一一二万円余にものぼり(乙六)、これらの価額は、右当時株式価額が上昇していた時期であることを考慮に入れてもなお、前記のような原資により購入し得る金額とは考えられないから、右供述は採用できない。
控訴人らは、株式が名義人以外の者に帰属すると認定できるのは、購入原資を名義人以外の者が出捐したと認めることができ、かつ、出捐者と名義人との間に贈与の事実がないと認定される場合でなければならないが、本件株式の購入原資は各名義人が出捐したから、善次郎に帰属したとは認定できないと主張する。確かに株式の帰属を認定するにあたり、株式の名義は重要な要素ということはできるが、他人名義を借用して株式を取得することも通常みられることからすれば、株式購入の原資を出捐したか否か、株式売買の意思決定をし、株式を管理運用してその売買益を取得しているか否かもまた右認定の際の重要な要素ということができ、株式の帰属する者の認定は右の各要素とその他、名義人と管理、運用者との関係などを総合考慮してなすべきである。これを本件についてみるに、前記認定のとおり購入原資を本件株式の各名義人が出捐したとは認められず、株式の購入、管理、処分を行っていたのは善次郎であるから、本件株式は、善次郎に帰属すると認めることができる。
更に、控訴人らは、被控訴人が控訴人善三郎に同控訴人及びその妻子名義の株式は全て善次郎のものである旨の確認書を作成させているにもかかわらず、右株式につき同控訴人らが善次郎から贈与を受けたと認定していること、贈与を受けたと認定したのであれば、贈与税の申告の慫慂をすべきであるのにその形跡がないのは、不可解であるし、また、昭和六三年までは善次郎が株式の管理運用をしていたのは本件株式のみではなく、他の家族名義の株式も同様であるからこれらについても修正申告の慫慂がなされるべきであるのに、これがなされないのは被控訴人の論理に矛盾があるからであるなどと主張する。しかし、本件全証拠によるも、本件修正申告にあたり、被控訴人が控訴人善三郎名義の株式につき善次郎から贈与を受けた旨認定したことを認めるに足りる証拠はない。控訴人らの主張のように、本件株式が善次郎の遺産に含まれると認定した根拠事実が他の家族名義の株式についても同様に見られるにも拘わらず、本件株式のみ善次郎の遺産であるとして提出された修正申告書をもとに本件処分を行い、他の家族名義の株式については何ら処分も修正申告などの慫慂もしないとすればこれが一貫性を欠く取扱いであるということはいえるにしても、控訴人善三郎及びその妻子や他の家族に関する右各主張事実があるからといって、控訴人正次及びその妻子らの名義の株式が善次郎の相続財産ではないとすべき理由にはならない。したがって、控訴人らの右主張は採用できない。
次に、前記<2>について検討するに、控訴人らは、善次郎名義株式等の申告漏れ分として約二四四〇万円分の株式等につき本件修正申告をしたが、右株式等はいずれも名義人が存在しないか、各名義人に帰属する株式であるから本件修正申告は誤りであると主張する。しかしながら、控訴人ら主張の割引債は無記名債券ではあるが、善次郎の保護預かり口座に保管されていたものであること(弁論の全趣旨)及び同人以外の者に帰属する旨の証拠も見あたらないことからすれば、右割引債は善次郎に帰属すると推認されるし、その余の株式は、全て東和証券大阪支店の善次郎の保護預かり口座に保管されており(甲九七、九八、九九の各1・2、弁論の全趣旨)、善次郎において購入、管理をしていたこと(甲七六)からすれば善次郎に帰属すると認めることができる。」
5 同六〇頁四行目の「無効である」を「無効であるから、有効な修正申告書の提出がなく、従って、過少申告加算税の賦課要件を欠くから本件処分は違法である」と、同六一頁一行目の「無効をいう」を「無効による本件処分の違法」とそれぞれ改める。
6 同六一頁二行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。
「4 控訴人らは、当初の申告に偽りはなく適正であったのであるから、国税通則法六五条一項にいう『納付すべき税額』の計算の基礎となった事実が修正申告前の計算の基礎とされていなかったことについて、同条四項にいう『正当な理由』があり、従って加算税は課されるべきではないと主張する。
しかし、前記認定のとおり、当初申告が適正であった旨の控訴人ら主張の前提事実を認めることはできないから、控訴人らの右主張はその余の点につき判断するまでもなく、採用することはできない。」
二 以上によれば、控訴人らの被控訴人に対する本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 正木きよみ 裁判官 礒尾正)